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ブログ記事

オバマ大統領訪日と歴史問題

  • Apr 20, 2014
歴史認識の問題は、何も日本だけにあるわけではない。むしろどんな国にも、歴史をどう認識するかについての問題が大なり小なりある。


過ぎ去った昨日

  • Mar 02, 2014
Yesterday is history by Emily Dickinson


決して忘れない

  • Mar 02, 2014
9.11同時多発テロ事件の前後、私はヴァージニア大学のロースクールで教えていた。


雪のヨーク

  • Mar 02, 2014
ヨークは古い町だ。ローマ人がブリタニア島を支配していた頃、皇帝の北の宮廷が置かれたという。


楽しい川辺

  • Jan 02, 2014
子供のころ、児童文学者の石井桃子さんが自宅に設けた子供の図書館、「かつら文庫」に毎週通った。そこで『楽しい川辺』という石井さんが訳した本に出会う。


初恋の機関車

 もうずいぶん前のことだが、自宅で何気なくテレビをつけたら、BSで蒸気機関車の特集をやっていた。近頃めずらしいのんびりした番組で、SLを撮影した昔のフィルムを延々と映し、マニアらしい人2人が、「ううん、この場所、この角度で上から撮ったデコイチは珍しいですね」「瀬野八で切り離すとき、運転士はちょっと煙を出して、離れていくんですね、たまんないね」などと、普通の人が聞いたら到底理解不能な会話をしている。思わず見入っていると、家内から、「何してるの、早く仕事しなさいよ」と、一喝された。

 広島に伯父夫婦が住んでいて、子ども時代、家族であるいは妹と2人で、毎年夏休みに訪れるのがならいだった。寝台列車に乗って東海道線を西へ下り、翌朝早く広島に到着する。汽車の旅の記憶は、幼少時から体にしみついている。

 前述の「瀬野八」というのは、広島から山陽本線で東へ6つ目の瀬野駅から7つ目の八本松駅までの間、10.6キロの区間のことで、勾配が大変きつい。機関車1台では上り列車を引っ張りきれないので、明治の昔から、後ろに補助機関車(補機)をつけ押していた(現在は貨物列車だけだそうである)。前後2台の蒸気機関車が、罐に石炭を思い切りくべ、ボイラーでつくった高圧の蒸気によってシリンダーを懸命に動かし、煙突から2筋の太い煙を吐き出しながら、あえぎ、あえぎ峠へむかって登る。おお、なんと美しい。なんと雄々しい。機関車の汽笛と蒸気を吐き出す音が、今にも聞こえてくるような気がする。

 まだ小学校へ上がる前だったと思う。父に連れられて山陽本線の列車に広島から乗車し、どう頼み込んだのか、2人で最後尾の荷物車に入れてもらった。広島の街を離れ、上りにさしかかり、しばらくしてようやく峠を越えると、全力で走りながら後ろに続く補助機関車との連結を切り離す。私たちが見つめる、すぐ目と鼻の先の連結器が、どういう仕組みか自動的に、がちゃんと外れ、その途端に機関車が私たちの乗った列車からスーッと離れる。機関車は動輪を回し、蒸気を車体の左右から噴きだし、煙突から煙を吐き出しながら、次第に小さくなり、やがて見えなくなった。私は遠ざかる補機をじっと見つめていた。

 思えばあれが、私の初恋の機関車であった。

(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス、ホームページ「おかしら日記:初恋の機関車」(2008年6月5日掲載)に加筆)