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ブログ記事

オバマ大統領訪日と歴史問題

  • Apr 20, 2014
歴史認識の問題は、何も日本だけにあるわけではない。むしろどんな国にも、歴史をどう認識するかについての問題が大なり小なりある。


過ぎ去った昨日

  • Mar 02, 2014
Yesterday is history by Emily Dickinson


決して忘れない

  • Mar 02, 2014
9.11同時多発テロ事件の前後、私はヴァージニア大学のロースクールで教えていた。


雪のヨーク

  • Mar 02, 2014
ヨークは古い町だ。ローマ人がブリタニア島を支配していた頃、皇帝の北の宮廷が置かれたという。


楽しい川辺

  • Jan 02, 2014
子供のころ、児童文学者の石井桃子さんが自宅に設けた子供の図書館、「かつら文庫」に毎週通った。そこで『楽しい川辺』という石井さんが訳した本に出会う。


乗りものの見える景色

 汽車、飛行機、船を眺めるのに、ちょうどいい場所というのがある。

 改装前の東京ステーションホテルには「椿」というレストランがあって、窓のすぐ外に東京駅のホームが並んでいた。ひっきりなしに列車や電車が入線し、発車する。食事の相手がだれでも、話がどんなにつまらなくても、気にならなかった。

 先般仕事でロンドンに出張し、大英図書館を訪れたあと、すぐ近くのセントー・パンクラス駅に足を伸ばした。大陸へ向かうユーロスターの発着駅である。駅の構内を歩いて、あっと驚いた。ユーロスターの列車がプラットホームに停車するそのすぐわきに、バーが設けてあるのである。ワイングラスを傾けるあいだに、すぐ脇の高速列車が動き出し、発車する。今度ロンドンを訪れたら、ぜひあそこで飲もう。

 空港のレストランは発着する飛行機を見るのにいい場所だが、ターミナルから少し車で走ると、滑走路のすぐ先で飛行機の離陸着陸を見られる場所がある。ワシントンのレーガン・ナショナル空港はポトマック川の畔にあって、滑走路のはしの水路を越えたところにだれでも入れる公園がある。ハイウェーから公園へ入り駐車場に車を停めて、水路に立つ進入灯の真ん前の空き地で滑走路の方へ向いて立つと、真上をジェット機が飛ぶ。離陸するときは滑走路を全速で走ってくるジェット旅客機が、グイと機首を引き上げて急上昇し、轟音とともに頭上を通り過ぎる。着陸の際には背後から突然ジェットエンジンの音が響きはじめ、まるで私の頭をかするようにして、すぐ目と鼻の先の滑走路にタッチダウンする。後輪が滑走路につく瞬間、埃が舞いあがるのが見える。

 お金が余るほどあって、どこでも好きなところに住めるなら、汽車、飛行機、船をすべて間近に見られるところに住みたい。たとえばシアトルがそうである。市街は海に面していて、目抜き通りにはかわいいストリートカーが走り、すぐそばをアムトラックの特急列車が通り抜ける。目の前のエリオット湾を、周辺の島へ向かういろいろな大きさのフェリーが行き交い、大きなクルーズ客船が出港する。シアトル空港へ離着陸する旅客機が上空を横切る。郊外のエバレットにはボーイングの大きな工場もある。

 市街の海沿いにエッジウォーターというこじんまりしたホテルがあって、昔ビートルズが最初の世界ツアのときに泊まった。ホテルがファンに囲まれ一歩も出られない4人はホテルの窓から糸を垂れ、釣りをしたという。このホテルで一度朝食を採ったが、目の前の海と船を眺めながら、幸せとはこういうことかと思った。

 でもそんなところはなかなかないし、まして住めない。8年ほど前アメリカから帰ってきたとき、真下を東海道本線、横須賀線、京浜急行の電車が走るマンションに住もうか、港の近くの船の汽笛が聞こえるマンションに住もうか、迷った。結局後者にして、休日になると港へでかける。運がいいと客船の入港や出港に遭遇する。しばらく住んでいたら、風向きや時間によって、羽田空港を離陸した飛行機が真上を飛ぶことに気づいた。高い空を、ジェット旅客機が、かすかにエンジンの音を響かせて横切る。

 年を取って仕事をやめたら、港に面した公園のベンチに腰掛け、行き交う客船、観光船、タグボートや水先案内人のボート、そして上空を飛ぶ旅客機やヘリコプターを一日中見ていたい。

(朝日新聞夕刊1997年9月9日掲載「私空間 居を構えるなら」に加筆)