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ブログ記事

オバマ大統領訪日と歴史問題

  • Apr 20, 2014
歴史認識の問題は、何も日本だけにあるわけではない。むしろどんな国にも、歴史をどう認識するかについての問題が大なり小なりある。


過ぎ去った昨日

  • Mar 02, 2014
Yesterday is history by Emily Dickinson


決して忘れない

  • Mar 02, 2014
9.11同時多発テロ事件の前後、私はヴァージニア大学のロースクールで教えていた。


雪のヨーク

  • Mar 02, 2014
ヨークは古い町だ。ローマ人がブリタニア島を支配していた頃、皇帝の北の宮廷が置かれたという。


楽しい川辺

  • Jan 02, 2014
子供のころ、児童文学者の石井桃子さんが自宅に設けた子供の図書館、「かつら文庫」に毎週通った。そこで『楽しい川辺』という石井さんが訳した本に出会う。


大桟橋の記憶

 子供のときは汽車と飛行機ばかり追いかけていたのに、ある時期から急に船が好きになった。

 高校進学の少し前、横浜に入港したオランダの客船ロッテルダムを見学したのがきっかけである。横浜に住む友人の父君からボーディングパス(乗船許可証)をもらって、2人で中へ入った往年の大西洋横断航路客船は、2階吹き抜けの食堂や600人以上入れる劇場など、驚くほど豪華だった。煙突のないその独特な船形は、あでやかな曲線を描き、ため息が出るほど美しかった。幼いころ両親に連れられてアメリカの客船、プレジデント・クリーブランドを見学したことがある。その記憶が突然よみがえったのだろう。この時以後、客船の虜になった。

 時は1970年代前半。ジェット旅客機に押されて数が減ったと言われながら、横浜の港にはまださまざまな形と大きさの客船がやってきた。イギリスP&Oラインのキャンベラ、オリアナ、ヒマラヤ、アーケディア、オロンセイ。同じくイギリスはキューナード汽船会社のQE2。アメリカン・プレジデント・ラインズのプレジデント・クリーブランドとウィルソン。スウェーデンのクングスホルム、ノルウェーのサガフィヨルド、香港のコーラル・プリンセス オランダのチワンギ。ソ連のバイカル、大阪商船のあるぜんちな丸、ぶらじる丸。船が港に入る度にでかけ、運がよければボーディングパスを手に入れて、船内を見学した。

 客船は、幕末開港の際に築造された波止場と同じ場所にある大桟橋に停泊する。見学デッキから外国客船のなかへ一歩足を踏み入れると、そこは外国であった。アメリカやオーストラリアからやってきた観光客や、白い制服を身につけた船員が行き交い、英語の会話が聞こえる。客船特有のにおいがした。最上階の甲板から一番下の甲板までくまなく見学して回っているうちに、出港時間が近くなり、見学者は下船させられる。

 移動式の舷梯が外され、乗船口が閉じられ、出港準備が整う。岸壁ではブラスバンドが見送りの演奏を始める。陸と船をつなぐもやいが順々に岸壁のボラード(係船柱)から解かれ、最後のもやいが海に落ちたころ、船が岸壁を離れ、汽笛を3声鳴らし、ゆっくりと動き出す。桟橋から十分離れたところで向きを変えて外海の方に舳先を向けると、それまで引っ張っていたタグボートが離れて、自力で前進を始める。テープをにぎり手を振る船客の声が、やがて聞こえなくなった。

(朝日新聞夕刊1997年9月掲載「私空間 大桟橋の記憶」に加筆)